潰瘍性大腸炎に対する治療として青黛という漢方薬はある程度の効果をあげているようですが、厚労省から副作用の報告もあって使用には注意が必要なようです。
青黛に関して調べてみました。
青黛とは
青黛とは、リュウキュウアイ・ホソバタイセイなど数種類の植物から作られるもので、中国では紀元 900 年頃から消化器症状(特に吐下血)に対する治療として使用されていたようです。
日本では、顔料としても使用されています。

日本で潰瘍性大腸炎の治療薬として使用されるきっかけは、2001年に広島のスカイクリニックの天野医師が錫類散(シレイサン)の有効性に気づき、研究を進めて有効成分が青黛であることを突き止めたことが始まりです。
薬品として扱われないため患者さんは個人で購入するしかなく、服用量や服用期間を自分で判断せざるを得なかったためか、最近では有害事象の報告もあり、その使用には注意が必要です。
青黛はなぜ潰瘍性大腸炎に効くのか?
慶應大学のサイトがわかりやすいので使わせて頂きます。
西洋医学では、炎症を起こす細胞(白血球)を減らすか・炎症を起こす物質を減らそうとしますが、青黛は、全く異なった作用で炎症を抑える細胞を増やそうとします。

炎症を抑える細胞は、制御性T細胞(regulatory T cell:Treg)と呼ばれ、青黛(indigo naturalis:IN)が芳香属炭化水素受容体(Aryl hydrocarbon receptor:AhR)と結合すると、粘膜下に大量に誘導されます。
これにより粘膜の炎症が改善すると考えられています。

有効率
2018 年に慶應大学を中心とした多施設二重盲検ランダム化比較試験(RCT)がおこなわれました。サンプル数は 86 例です。
治療開始から 8 週後の時点での比較です。
臨床的奏効率
臨床症状の改善が見られたものです。
プラセボ | 13.6% |
青黛(0.5 g/日) | 69.6% |
青黛(1.0g/日) | 75.0% |
青黛(2.0g/日) | 81.0% |
臨床的寛解率
臨床症状が消失した割合です。
プラセボ | 4.5% |
青黛(1.0g/日) | 55.0% |
青黛(2.0g/日) | 38.1% |
粘膜治癒率
内視鏡的に粘膜治癒が得られた割合です。
プラセボ | 13.6% |
青黛(0.5 g/日) | 56.5% |
青黛(1.0g/日) | 60.0% |
青黛(2.0g/日) | 47.6% |
また、ステロイドや抗 TNFα 抗体製剤の奏功しない症例に対しても青黛が有効である場合もあるようで、有効率はかなり高いと言えます。
このデータを見る限りは、1 日 1 g から開始して 8 週間で効果判定するのがいいかと思います。
有害事象
前述した RCT では重篤な有害事象はなかったようですが、軽度の一過性肝障害、頭痛、胃痛・腹痛、嘔気が 5%以上の患者に見られたようです。
青黛を自己導入する患者さんが多いため、すべてを含めるとおそらく全体の 40 % 程度の症例で有害事象があると思われます。
注意すべき有害事象として、肺動脈性肺高血圧症(PAH)・虚血性腸炎・腸重責があります。
肺動脈性肺高血圧症(PAH)
肺動脈性肺高血圧症の発生機序は、慶應大学のサイトによると以下のようにAhR活性化による肺血管細胞の異常増殖が起こるためのようです。

青黛を摂取するとAhRシグナルが活性化する。適切な活性化は腸管での抗炎症作用に繋がるが、過剰摂取により肺でAhRシグナルが活性化すると、肺動脈性肺高血圧症を引き起こす。AhRシグナルのバランスが重要である。
肺動脈性肺高血圧症の発症率は詳細は不明ですが、広島のスカイクリニックの統計では 7000 人中 14 例に肺動脈性肺高血圧症がみられたようです。
前述の RCT では、青黛を自己導入した患者さんで 2 g/day を 13 ヶ月間服用した後に肺動脈性肺高血圧症を発症しています。
肺動脈性肺高血圧症を疑ったら胸部 X 線・心電図・心エコーの検査はおこなうべきですが、肺動脈性肺高血圧症は早期発見が比較的難しく、労作時呼吸困難、易疲労感、動悸などの症状に注意する必要があります。
循環器科との連携をおこなって可能な限り早期に診断するのが望ましく、肺動脈性肺高血圧症と診断されれば投薬を中止します。
投薬中止によって、肺動脈性肺高血圧症は回復すると考えられています。
導入方法
中等症以上の潰瘍性大腸炎で、サラゾピリンが無効であり、チオプリン製剤や生物学的製剤に移行する前に青黛による寛解導入を試みる価値はあるかもしれません。
導入方法に関してのコンセンサスはないようなので以下のようにしたいと思います。
- 症状の軽い場合は 1 g/day、やや重い場合は 2 g/day で開始します。
- 投与開始から 4 週間後に血液検査をおこなって、有害事象の有無を判定します。
- その際に症状の改善が見られない場合は増量します。極量は 4 g/day という意見もあります。
- 投与開始から 8 週間後に再度血液検査などをおこないます。
- 寛解維持のための漫然とした長期使用は勧められておらず、原則 8 週間で中止します。
上にも示したように PAH の合併には特に注意が必要です。