鉄代謝に関しての理解をアップデートする必要性を感じてあれこれ調べてみたのですが難解なものが多いので、まずは内科学会の教育講演から読んでみたいと思います。
東北大学の張替秀郎教授の教育講演「鉄代謝と貧血」からです。
体内の鉄動態とその制御

- 体内の鉄の総量は 3 – 4 g。
- ほとんどは破壊された赤血球などの鉄を再利用しており、消化管から吸収されるのは 1 – 2 mg/day、つまり 0.03 – 0.06 % だけである。
- フェロポーチンというタンパク質によって、鉄は細胞外に排出され血液中のトランスフェリンと結合して骨髄に送られる。
- フェロポーチンをコントロールしているのが肝臓から分泌されるヘプシジンというペプチドで、ヘプシジンは鉄飽和度や炎症によって分泌が増加し、フェロポーチンの作用を抑制する。
- 細菌感染の際にヘプシジンが分泌されて血液中の鉄レベルが低下するのは、細菌が利用できる鉄を減らすことによって生体を防御する意味があるらしい。
- 消化管からの鉄吸収は少ないため、出血などにより体内の鉄量は簡単に負のバランスに傾く。
- 食事に含まれる鉄にはヘム鉄と非ヘム鉄があり、ヘム鉄の方が吸収が良い。
- また、エリスロポエチンによる赤血球造血はヘプシジン抑制によるもの。

鉄欠乏性貧血
- 鉄欠乏状態が続くと、まず貯蔵鉄が減少し血清鉄が減少して、ヘモグロビン鉄が減少し最終的に貧血に至る。
- 鉄は赤血球だけでなく他の細胞でも必要なので、鉄不足は舌炎・嚥下障害・異色症・爪の変形などをきたす。
- 鉄欠乏性貧血の原因の多くは出血であり、閉経前の女性の 10 – 20 % が鉄欠乏性貧血を発症している。
- 閉経前の日本女性の鉄の必要量はおよそ 10 mg/day とされているが、実際の摂取量は 7.4mg と不十分なため、積極的に鉄を摂取する必要がある。
- 鉄の貯蔵量を最も鋭敏に反映するのはフェリチンであるが、炎症時にはフェリチンが上昇するため正確な指標とはならない。
(これは少し違うのでは? このサイトによると「血清フェリチン値はこのような細胞内から産生されたフェリチンが一部血液に流出しているのを測定しています。血清フェリチン値は体内のフェリチン量に比例することが知られており・・・・・」。そしてこの方が説得力があります。つまり、炎症時は鉄の貯蔵量は多いけれどもそれが利用できない状態じゃないんでしょうか?) - 鉄剤を投与すると、まずヘモグロビンが正常化し、その後でフェリチンが正常化してくる。フェリチンが正常化するまで鉄剤を投与する。
- 経口の鉄剤は消化器症状が出ることがあるため、静注用の鉄剤が用いられるが過剰投与に注意する。
- H.Pylori による胃酸の低下などによって鉄分の吸収が悪くなるという報告があり、そういう場合にはHP除菌を考慮する。
炎症に伴う貧血
慢性炎症では、IL-6などの炎症性サイトカインがヘプシジンの分泌を誘導するため、フェロポーチンによる鉄の放出が抑制され貧血をきたすことがある。この場合、鉄の貯蔵量が減少したわけではないのに血清鉄は低下し貧血になる。
こういう状態に対して鉄剤を投与しても、投与された鉄が造血に繋がることはなくむしろ鉄過剰の状態をもたらす可能性もある。
このような貧血の場合は、まず炎症のコントロールが必要。炎症がコントロールされない限り貧血は改善しない。
血清鉄が低くてヘモグロビンが少ない点は鉄欠乏性貧血と同様であるが、鑑別のポイントはフェリチンで、フェリチンが高値の場合は炎症による貧血である。
ヘプシジンの抑制作用を有する分子標的薬が現在開発中である。
非ヘム鉄とヘム鉄
非ヘム鉄とは、「Fe2+ 又は Fe3+ の化合物」です。
ヘム鉄というのは、鉄がポルフィリンにキレートされた(挟み込まれた)もので以下のような構造をしています。

この2つは体内への吸収メカニズムが異なっており、吸収率はヘム鉄が 10 – 30 %、非ヘム鉄が 1 – 8 % とされており、吸収率はかなりの差があります。
食材では、

なお、病院で処方される鉄剤はすべて非ヘム鉄です。
非ヘム鉄は吸収率は悪いのですが、それ自体悪いわけではなく手軽なので用いられています。