犯人探しをしない小学校の先生 – カトウツヤコ先生

小学校3年の時の担任の先生は、カトウツヤコ先生という名の30代の女の先生でした。
この先生は素晴らしい先生でした。

ある日、理科の授業の際に生徒全員に虫眼鏡が配られ、その虫眼鏡を使って太陽の光を集めて、習字で書いた半紙に虫眼鏡で焦点を当てて、黒い部分は簡単に焦げ、白い部分はあまり焦げないという実験をしていました。

私はその実験に夢中になって、その虫眼鏡をどうしても欲しいと思い、思わず虫眼鏡をポケットに密かにしまい込みました。つまり、私はその虫眼鏡を盗もうとしたのです。

授業が終わって、カトウ先生が虫眼鏡を回収しその数を数えて1つ足りないことに気づきます。

カトウ先生は生徒全員に向かって、
「虫眼鏡が一つ足りないんだけど」
と言いました。

私は身も凍るような思いで、ひたすら黙っていました。
調べれば、私が犯人であることは簡単にバレてしまう。

ところが、その後のカトウ先生の行動は信じられないものでした。

なんと、カトウ先生は、全員の顔をしばらく眺めた後、ひとしきり思案して、犯人探しをすることなくそのまま教室を出ていったのです。

私は「助かった!」と思いました。

カトウ先生は、なぜあの時に犯人探しをしなかったのか?
今でもわかりません。
普通の先生であれば、必ず犯人探しをしたはず。

カトウ先生の行為が正しかったのかどうかはわかりませんが、その行為はまるで禅の高僧のようです。

正しさよりも大事なものがある?

あれから60年、私には永久に到達できない世界です。