この本も、天才精神科医・伊良部一郎の話です。
例によって内容はほとんど悪い冗談の連続ですが、この本は第 131 回の直木賞受賞作品です。
読んでいる時は、ほとんどずっと笑っている状態です。
直木賞って、十円玉が挟めるほどに眉間にシワを寄せて読むものかと思っていました。
この本は 5 つの短編から構成されています。
それぞれとても面白い話ですが、個人的には尖端恐怖症のヤクザの話が一番でした。
高所恐怖症の私にとって、「空中ブランコ」なんて論外ですが、伊良部一郎は高いところから平気で身を投げ出したりします。身を投げ出す方が実は成功確率が高いということは何となくわかります。
例えば、スキーでは重心を谷側に向けるとターンができるようになります。怖がって山側に重心を置くと上手くターンはできません。
でも、そうは言っても恐怖に打ち勝って身を投げ出すなんて簡単にはできません。
また、我が家の玄関に置いてある靴べらが自分を向いていると恐怖を感じて、私は向きを変えたりします。ひっくり返ったら目に入るかもしれないと感じるからです。
「ハリネズミ」はそうした尖端恐怖症のヤクザが主人公です。
「義父のヅラ」は、権威の塊のような医学部長の義父がかぶっている、誰が見ても一瞬でわかるカツラを引き剥がしたいという衝動に駆られる医師の話です。
これも、クライマックスでは腹を抱えて笑うシーンが展開されます。
「ホットコーナー」は、有望新人の登場に怯えるプロ野球の 3 塁手の話。
人の不幸によって自分が救われることがある、というのは真理かもしれません。
「女流作家」は、パターン化されたロマンス小説しか書かなくなって、強迫神経症に陥る作家の話です。
イケメン男性と美人モデルの恋愛のようなアホみたいな単純化されたパターンでいくつもの作品を繰り返して書いているうちに、過去に同じ話を書いたような錯覚にとらわれます。
パソコンで書いているならすべて記録されているはずなので、データベース化すればいいのにとか変なところで突っ込んでしまいました。