天才精神科医・伊良部一郎の話です。
「天才精神科医」という言葉から連想されるイメージは、背が高くてイケメンでカミソリのような雰囲気を持っている有能な医師という感じかと思いますが、この本に登場する主人公はそういうイメージとは真逆の人間です。
背は低くて、太っていて、脂ぎっており、しかも注射フェチというとんでもない設定です。
患者さんは例外なく必ず注射を打たれます。伊良部一郎は注射フェチなので治療とは全く関係なく注射をするのです。
受診する患者さんは本当に病んでいるのですが、伊良部一郎はハチャメチャな方法で最終的にはすべて治してしまいます。そのプロセスが余りにも無茶苦茶でおかしく、電車の中で読むと笑いをこらえなければいけないかも知れません。
この本は2010年に買って読んだものですが、13年ぶりに読んでみました。やはり面白い。
5つの短編集から構成されているのですが、その奥底に通底しているのは、自分を大きく見せたいとか他人に嫌われたくないという自意識を過剰に感じてしまうとおかしなことになるということかと思います。
犯罪でなければ、自分勝手に好きなように生きていけば精神を病むことはないのかもしれません。
「誰かが守れ、ぼくは知らないってそっぽ向けばいいの。心配は人にさせるの。」
いちいち責任のすべてを自分が引き受けることはないということでしょうか?
確かにそうすれば、心理的にはグッと楽になりますね。