吹き寄せ雑文集:岸田秀

20年以上前に読んだものですが、岸田秀さんがあちこちに書き散らした(本人)ものを集めたものです。

いろいろと考えさせられるフレーズがたくさんあります。

およそ、戦さというものは、勇敢な作戦を立てた側が必ず負け、臆病な作戦を立てた側が結局は勝つのである。
NHK は戦前、戦中、戦後にわたって展開するある主人公またはある家族の物語を何種類も幾度となく放映しているが、戦中の場面での登場人物のほとんどは、判を押したように戦争に反対だったり、あるいは少なくとも疑問を感じていたり嫌がっていたりする平和主義者である。このような人たちばかりでよくぞ戦争が遂行できたものだと不思議である。

これは猛烈な皮肉ですが、私も NHK のその手のドラマには同様の違和感をずっと感じていました。

日本人が和に大きな価値をおいているからと言っても、それは日本人がだれとでも仲良くやってゆける善良な人間であるとか、自己犠牲的な人間であるとかということではなく、人びとのあいだの不可避的な対立を解決する手段として、闘争とその勝敗によるよりも、ごまかしと棲み分けによることを好んだということである。それは、ある意味では、対立の決定的な解決ともいうものへの絶望からきている。決して人間性への信頼というようなオプチミズムではなく、むしろ逆である。それはヨーロッパ人やアメリカ人の知恵とは違った形の、日本人の生きるための知恵なのである。

この観察力もとても鋭いと思います。