六人の嘘つきな大学生:浅倉秋成

これは面白い。
300ページを一気に読んでしまいました。

何だ、この平凡な題名は?
とか思いましたが、内容は素晴らしい。

浅倉秋成さんというのはまだ30代前半の新進作家のようです。

どんな本?

就職活動を舞台にしたミステリーです。

6人の就活学生が一流企業に就職するために、その企業から与えられたテーマを通じて協力したり陰謀を画策したりする話です。

ミステリー作品の常として、少しずつ新しい事実が明らかになって、
「そういうことだったのか!」
と引きずられること請け合いです。

テーマは?

一番主張したかったテーマは「人間は一面的ではない」ということ。

月の裏側が見えないように、我々が一人の人間を観察してわかったつもりになっていても、それはその人物の一面しか見えていないということです。

その時に見えているものは、見ている観察者の内部にある強烈なバイアスがかかっていて、そのことに観察者自身はおそらく気付いていないということ。

自分の観察はバイアスがかかっているかもしれないということを意識すれば少しはマシになるかもしれません。

昔、禅の本をよく読んでいた頃があって、その中に、

「人間はウニのようなもの。トゲはたくさんあっていろいろな方向に伸びている。そのいくつかのトゲを見て立派だとかダメ人間だとか判断している。」

というような内容の本があったような気がしますが、それと同じ感覚でしょうか。

就職選考で人事部は有用な人材を的確にピックアップできるか?

この本の終わりの方に大会社の人事部長が面白いことを言ってます。

「面接官をやる上でのコツと、相手の本質を一瞬で見抜くテクニックでしたね。これはもうね、本当に簡単に一言で言い表せますよ。
そんなものはない。これに尽きますね。」

そもそも最初からできないことをやろうとしているというわけです。

「嘘つき学生と、嘘つき企業の意味のない情報交換 — それが就活。」

他にいい方法がないから仕方なくやっている部分が多いと思いますが、他にいい方法があるんでしょうか?

そして、結婚も同じようなものかと。

それにしてもあのリクルートファッションはどうにかならないものでしょうか。