サイトメガロウイルスを合併する潰瘍性大腸炎

潰瘍性大腸炎にサイトメガロウイルス腸炎を合併することがあります。

この場合には、診断が困難になる場合があります。

サイトメガロウイルス(CMV)とは

通常、サイトメガロウイルスは幼少期に初発感染し、生涯にわたり潜伏感染が持続します

多くの場合、無症状で経過しますが、化学療法や免疫抑制剤の使用により免疫抑制状態になると再活性化されて臓器障害を起こす可能性があります。

CMVの再活性化

サイトメガロウイルス(CMV)は、ヒトの体内では骨髄のCD34+や末梢血のCD14+という単球系細胞に潜伏しています。

炎症性サイトカインにより、CMV潜伏感染細胞の分化が起こり、CMVが再活性化されると考えられています。

健常人では、CMV再活性化が起こってもCMVに対する特異抗体により感染拡大が阻止されますが、免疫状態が抑制されているとコントロールできなくなる可能性があります。

CMV 感染の診断

血清学的検査(抗CMV-IgM・IgG抗体)

急性期と回復期のペア血清を採取し、IgM・IgGの経時的推移から診断します。
一般的に、CMVの活動性感染の評価には有用ではありません。

CMV抗原血症検査(CMV antigenemia 法)

CMV構造蛋白のひとつ low matrix phosphoprotein 65 (pp65)をモノクローナル抗体で検出する方法です。

厳密にはCMV感染細胞ではなく、末梢血中に存在する pp65 抗原を貪食した好中球を検出するものです。

末梢血より分離した多核白血球をスライドガラス上に固定し、CMV抗原陽性細胞数を測定します。

この方法は、感度および特異度が高く、抗原陽性細胞数を定量的に評価できることから、CMVの活動性感染のモニタリングとして用いられています。

病理組織学的検査

CMV感染では巨細胞核内封入体が特徴的とされていますが、他のウイルス感染でも見られることがあり、この所見だけでCMV感染と確定できるわけではありません。

モノクローナル抗体を用いた免疫組織染色によるCMV抗原の検出されれば、CMVと確定診断できますが、感度が低く多数の検体採取が必要になります。

核酸増幅法(PCR 法)

とても有用な検査ですが、CMV感染腸炎では、ウイルス遺伝子の存在を示すのみでCMVによる組織障害を正確に反映しないこと・コストがかかる・保険適応外であること・実施できる施設が限定されるなどの問題があります。

内視鏡検査

内視鏡検査は必須です。

典型的な所見は打ち抜き様類円形潰瘍ですが、ほかに輪状傾向潰瘍・帯状潰瘍・縦走潰瘍など多彩です

CMVの検査としては、CMV抗原血症検査(CMV antigenemia 法)と組織検査は必ず施行するようにします。

UCにおけるCMV感染の病態生理

通常、生体内ではCMV再活性化が常に起こっています。
通常の免疫機能を持っていれば問題になることはありません。
しかし、それを監視する宿主の免疫機能が低下しバランスが崩れるとCMVによる障害が発生します。

潰瘍性大腸炎では腸管局所に慢性炎症を伴うことが特徴であり、腸炎そのものがCMV再活性化を生じやすい環境を作っていると言えます。

CMV再活性化は炎症部で認められ、非炎症部では認められないことは、このことを裏付けています。

治療法

CAP

CAPは免疫担当細胞に対する直接的な抑制作用が少なく安全性の高い治療です
そのため、CMV感染合併時には治療介入に伴う感染症の増悪リスクを回避できるという点で積極的に用いることができます。

ステロイド・カルシニューリン阻害薬

ステロイドやカルシニューリン阻害薬は注意が必要です。
これらの薬剤を使用している時にCMV合併が起きやすいからです。

ステロイド抵抗例では、速やかにステロイドを減量すべきです。

しかし、ステロイドで腸管の炎症がコントロールされれば、CMV感染が消失することはあり、UCに合併するCMV感染で重要なのは腸管の炎症そのものであることがわかります。

抗TNF-α抗体製剤

TNF-αはCMV活性化に関与していると考えられており、抗TNF-α抗体製剤は理論的にはCMV感染に悪影響があるとは考えにくい薬剤です。

CMV感染を合併したUCでは抗TNF-α抗体製剤は積極的な治療オプションの一つと考えられます。

抗ウイルス剤

UCに合併するCMV感染に対する抗ウイルス療法の必要性やその適応については一定の見解がありません。

しかし、抗ウイルス剤が有効であったとする報告もあり、また診断的投与を推奨する報告も見られます。

使用する場合は、ガンシクロビル 500mg/day を2週間程度使用します