胆道シンチグラフィが診断に有用であった乳頭括約筋機能不全合併が示唆された胆嚢ジスキネジアの 1 例

(2026-08-02)

オリジナルの論文は以下。

胆道シンチグラフィが診断に有用であった乳頭括約筋機能不全合併が示唆された胆嚢ジスキネジアの 1 例

症例

患 者:41 歳,女性
主 訴:右季肋部から背部の疼痛
既往歴:子宮筋腫(手術),高脂血症,偏頭痛
家族歴:特記事項なし
趣向品:飲酒歴なし,喫煙歴なし
現病歴:16 歳頃より心窩部から右季肋部における鈍痛,不快感を自覚し,多施設を受診し諸検査,投薬されるも改善が認められなかった.当科受診 1 年前より右季肋部から背部にかけて耐え難い疼痛が繰り返し出現,救急施設受診を繰り返すようになり精査目的に当科紹介となった.その疼痛は昼夜を問わず,不規則に出現,30 分以上持続し,救急受診時入院することもあった.救急施設入院後の上下部消化管精査や各種画像検査においても明らかな異常,原因は指摘されていなかった.
血液検査:異常なし。
画像検査:胸腹部 CT・上下内視鏡検査・MRCP 検査でも異常なし。
99mTc-PMT 胆道シンチグラフィ:胆嚢収縮率は 14% と低下し,総胆管から十二指腸への排泄も著明な遅延を認め,排泄率は 57% であった。胆道シンチ開始後胆道内にシンチが貯留した時点での疼痛の出現を認めた.
経過:以上より,胆道シンチグラフィにて胆嚢収縮低下,ファーター乳頭レベルでの胆汁排泄遅延を認めることから,GBD と SOD の合併と臨床診断した。
治療として内視鏡的乳頭括約筋切開術を施行後に、腹腔鏡下胆嚢摘出術を施行した。
術後経過:胆道シンチグラフィでは総胆管胆汁排泄率は 87% と著明に改善を認めた.術後 3 年後においても主訴であった右季肋部痛,背部痛の再発を認めず,経過良好である.

胆道ジスキネジアの分類

胆道ジスキネジアは以下のように分類される。

診断基準(Rome IV)

上記2疾患の診断には、Rome IV基準が用いられる。いずれも、まず以下の「胆道痛」の定義を満たすことが前提となる。

胆道痛の定義(以下すべてを満たす)

この前提のもと、GBDとSODそれぞれの基準は以下のように分かれる。

機能性胆嚢障害(GBD)の診断基準

区分 項目
必須基準 ①胆道痛を認めること
必須基準 ②胆石およびその他病理学的に構造的な病態がないこと
補助的診断基準 ①胆道シンチグラフィにて胆嚢収縮率の低値を認めること
補助的診断基準 ②肝機能・直接ビリルビン値・膵酵素(アミラーゼ・リパーゼ)が正常であること

機能性胆道SODの診断基準

区分 項目
必須基準 ①胆道痛を認めること
必須基準 ②肝酵素上昇または胆管拡張のどちらか一方(両方ではない)
必須基準 ③総胆管結石やその他の構造的異常がないこと
補助的診断基準 ①アミラーゼ/リパーゼが正常であること
補助的診断基準 ②Oddi括約筋内圧測定(マノメトリー)の異常
補助的診断基準 ③肝胆道シンチグラフィの異常所見

機能性膵Oddi括約筋障害(膵管型SOD)の診断は以下のようになっているが、実際にはかなり困難である。

区分 項目
必須基準 ①反復する膵炎エピソードが確認されていること(典型的な痛み+アミラーゼ/リパーゼが正常上限の3倍以上、および/または画像上の急性膵炎所見)
必須基準 ②他の膵炎の原因が除外されていること
必須基準 ③超音波内視鏡(EUS)で異常がないこと
補助的診断基準 ①Oddi括約筋内圧測定(マノメトリー)で異常があること

診断

採血・腹部US・上下内視鏡で異常がなければ、MRCPを施行する。

MRCPで総胆管・肝内胆管の拡張がなく、膵管・胆管の合流異常、狭窄、腫瘤性病変がない場合には、胆道シンチグラフィを施行する。

胆道シンチグラフィ

胆道シンチグラフィは、放射性トレーサー(99mTc標識イミノ二酢酸誘導体:HIDA、日本では99mTc-PMTなど)を静注し、肝臓での取り込みから胆汁への排泄、 胆嚢・総胆管・十二指腸への流れを経時的に撮像する検査である。胆嚢の収縮機能(GBD)と、Oddi括約筋を介した胆管排泄機能(SOD)を、 1回の検査で同時に評価できる点が最大の利点である。

負荷法の種類

胆嚢を収縮させるための負荷剤として、主に以下の2種類が用いられる。

項目 CCK負荷法 脂肪食負荷法
使用薬剤/負荷 CCK-8、日本ではセルレイン 脂肪乳(half-and-half milk等)
GBEF(平均値の目安) 75.8%(1回目)/ 71.3%(2回目) 53.6%(有意に低い)
排出期間(EP) 短い 長い(34.6分、有意に長い)
排出速度(ER) 速い 遅い(1.8%/分、有意に低い)
値のばらつき 比較的小さい 大きい(23.5〜91.8%)
痛みの再現率 高い(約61%) 低い(約30%)
検査時間 比較的短い 長い(約2時間)

CCK-8(セルレイン)の方が、値の標準化・再現性・診断的意義(痛みの再現)のいずれの面でも優れており、実施可能な施設ではこちらが第一選択となることが多い。脂肪食負荷は、CCK製剤が入手困難な場合などの代替法という位置づけである。

評価項目とカットオフ値

評価対象 指標 カットオフの目安 示唆される病態
胆嚢相 GBEF(胆嚢排出率) 35%未満 低収縮型GBD
胆嚢相 GBEF(胆嚢排出率) 80%以上 過収縮型GBD
胆管排泄相 総胆管〜十二指腸への排泄遅延・排泄率低下 施設基準による SOD(胆道型)

治療

診断が確定した(あるいは強く疑われた)後の治療方針は、疾患ごとに大きく異なる。特に侵襲的治療(手術・EST)に踏み切るかどうかの閾値が、各疾患で異なる点がポイントである。

機能性胆嚢障害(GBD)の治療

病型 第一選択 備考
低収縮型(GBEF<35%) 腹腔鏡下胆嚢摘出術 GBEF低値が確認された症例では症状改善率が比較的高い
過収縮型(GBEF≥80%) 腹腔鏡下胆嚢摘出術(症例により) 比較的新しい概念で、エビデンス蓄積中
軽症・GBEF未測定など 経過観察・安心づけ 抗痙攣薬、神経調節薬、ウルソデオキシコール酸なども選択肢(有効性は未確立)

機能性胆道SOD(胆道型)の治療

所見 治療
肝酵素上昇+胆管拡張の両方(旧SOD I型相当) 胆道狭窄として内視鏡的乳頭括約筋切開術(EST)
どちらか一方のみ(Rome IV機能性胆道SOD) 薬物療法を優先(Ca拮抗薬、硝酸薬など)。ESTはリスクがベネフィットを上回ることが多く慎重に
両方とも陰性(旧SOD III型相当) ESTは避ける。経過観察・神経調節薬(三環系抗うつ薬など)

機能性膵Oddi括約筋障害(膵管型SOD)の治療

膵管型は前述の通り診断自体が難しいため、治療もより段階的かつ慎重に進める。

  1. 保存的治療を優先:NSAIDsによる疼痛・炎症コントロール、膵酵素補充、脂肪制限などの生活指導、禁酒
  2. 薬物療法:Ca拮抗薬や硝酸薬など括約筋弛緩薬を試みることもあるが、エビデンスは限定的
  3. 侵襲的治療は最終手段:頻回入院を要するなど保存的治療で対応困難な場合に限り、リスク(術後膵炎)を十分説明した上でERCP・マノメトリー・膵管ステント留置やスフィンクテロトミーを検討

胆道型と異なり、膵管型では侵襲的治療に進む閾値が高い。これは、確定診断のための検査(マノメトリー)自体が治療対象と同じ膵炎を誘発しうるという、診断・治療双方に共通するジレンマに起因する。

3疾患の治療方針の比較

項目 GBD 胆道型SOD 膵管型SOD
主な根治的治療 胆嚢摘出術 EST 膵管ステント/EST(膵管側)
侵襲的治療への閾値 比較的低い 客観的所見の有無で判断 高い(最終手段)
主な合併症リスク 通常の胆摘リスク 出血、穿孔、術後膵炎 術後膵炎(頻度が高い)