以下の論文をまとめます。
潰瘍性大腸炎における colitis-associated cancer(炎症性発癌)早期病変の病理診断―現状と問題点―潰瘍性大腸炎(ulcerative colitis;UC)では大腸癌が好発することが知られており,colitis-associated cancer(炎症性発癌)と呼ばれている.
UC に発生する粘膜内腫瘍には,通常の大腸に発生する腺腫や腺癌と病理組織学的には同質のもの(通常型:散発性腫瘍)と,通常の大腸ではみることがまれなもの(特殊型)とがある.
特殊型の中には,日本の病理組織診断基準では粘膜内癌と診断されうるものも少なくないが,組織学的特徴(細胞・組織像,組織構築像・発育様式), 細胞増殖動態,p53 免疫染色態度が通常の大腸粘膜内腫瘍とは異なる.
①表層への細胞分化:通常型の大腸腫瘍では,鋸歯状病変や一部の絨毛管状腺腫を除き,増殖帯(増殖細胞高密度領域)は粘膜表層~中層または全層に存在し,表層への細胞分化を示すものは少ない. UC では,表層に向かって細胞分化(核の小型化,N/C 比の低下,粘液産生)を示す腫瘍が好発する.このタイプの腫瘍では,腺底部の細胞異型が最も強く,crypt dysplasiaとも呼ばれている.
②細細胞の分化異常:内分泌細胞,パネート細胞など豊富な分化細胞が出現するもの,核の極性が消失した異常な杯細胞(dystrophic goblet cell)をともなうもの, これらとは逆に細胞分化をほとんど示さず,粘液滴のほぼ消失した均一好塩基性細胞質からなる細胞分化に極めて乏しいものがある.
③粘膜内脱分化:胃癌とは異なり,大腸粘膜内癌の圧倒的多数は分化型であり,未分化型として発生するものや,粘膜内で未分化化するものは極めて少ない. 炎症性発癌早期病変では,こうした未分化型腺癌が de novo に発生するか,分化型腺癌が粘膜内で脱分化をきたすものが少なからずみられる.
正常の大腸陰窩では,増殖帯は粘膜中層~深層(最腺底部は除く)に存在し,表層に向かって細胞は分化する. それに対して,通常型の大腸腺腫では増殖帯は粘膜表層~中層に存在し,癌ではそれが腺管深層に向かって延長する.
U増殖帯が腺管中層以深にあるものは bottom-up morphogenesis と呼ばれ,UC の炎症性発癌早期病変は通常型の大腸腺腫とは異なり,正常陰窩と同様に bottom-up type の細胞増殖動態を示すものが多い.
腺腫を前癌病変とする adenoma-carcinoma-sequence(ACS)では,p53 遺伝子変異は発癌過程の後期に生じると考えられているが, UC の炎症性発癌では p53 遺伝子変異は ACS に比べ高率かつ発癌早期の段階で生じていることが明らかにされている.
UC の炎症性発癌早期病変では 70~80% の頻度で p53 蛋白過剰発現がみられ,病理診断の補助手段としての価値が高い.
UC の炎症性発癌早期病変の診断としては、 3つの分類が用いられている.
欧米では,UC に発生する粘膜内腫瘍を dysplasia と呼び,その病理組織診断のガイドラインが作成され,生検診断と内視鏡的サーベイランスが行われてきた.
Dysplasia 分類では,UC の粘膜内異型上皮を,Negative(非腫瘍),Indefinite(腫瘍か非腫瘍か判定困難),Positive(腫瘍)に3 分し,Positive は細胞異型から, Low-grade dysplasia(LGD)と High-grade dysplasia(HGD)に分類される.
しかし,原則として「粘膜内癌」の診断をしない欧米の病理診断基準では,“dysplasia”は粘膜内上皮性腫瘍全般を指し,その中には UC に偶発した腺腫や carcinoma in situ(上皮内癌)も含まれる.
UC に発生した粘膜内腫瘍も,日本の通常の病理診断基準で腺腫か癌かに診断する立場もある. この立場での診断では,UC に発生した通常の腺腫を腺腫(adenoma)(Group 3)と積極的に診断することで,dysplasia 分類の問題点である過剰治療を防ぐことができる.
厚労省分類の特徴は,日本の病理診断基準で「癌」と診断できるものを明確化したこと(UC-IV)と,「癌」とは診断できない腫瘍を UC-III として一括し, その中で通常の腺腫と診断しうるものだけを「腺腫」として質的診断を行う,としたことにある.
厚労省分類の長所は,通常の腺腫を dysplasiaと診断した結果生じる過剰治療を防止できることと,通常型の腫瘍と UC の炎症性発癌早期病変とを区別する姿勢を示したことにあり, そのためにUC-III というカテゴリーが導入されている.
上述した3つの病理診断分類の対応関係をFigure 4 に示す.
UC の炎症性発癌早期病変の病理診断で最も重要な問題点は,炎症再生異型上皮や UC に偶発する通常型腫瘍との鑑別診断手順が明確にされていないことである. 病理医間での診断の一致率も必ずしも高くない.
Figure 5 に,本稿で述べた,炎症性発癌早期病変の組織学的特徴,細胞増殖動態,p53 蛋白過剰発現および病変の肉眼形態を組み合わせた,UCの粘膜内腫瘍の診断アルゴリズムを提示する.
とても内容が充実しておりしかも病理学が中心であるため、かなりの部分をカットした。