腹水貯留と広範囲な腸管壁の肥厚を伴う好酸球性胃腸炎の1例

(2024-11-01)

以下の論文をまとめます。

腹水貯留と広範囲な腸管壁の肥厚を伴う好酸球性胃腸炎の1例

症例

患者 60歳,女性
主訴 下痢・腹部膨満感
既往歴 約10年前に胃潰瘍の既往あり,気管支喘息やア トピー性疾患はなし
家族歴 特記すべきことなし
生活歴 喫煙 80本×34年(24歳~58歳)
服薬歴 酸化マグネシウム1g/日,センノシド 12mg/日,抗パーキンソン病薬,糖尿病薬。
現病歴 生来健康であった.57歳頃より時々腹痛があり, 市販薬を内服していた.58歳頃より腹圧がかかると失禁す るようになった.入院の2ヶ月前より腰痛および腹満感が 悪化し,2週間前より下血が出現し,その後下痢便となっ た.腹満感も徐々に悪化したため近医受診し,腹部エコー にて多量の腹水貯留を認め,精査・加療目的にて当院入院 となった.
入院時現症 身長150.2㎝,体重57.5㎏,血圧112/76㎜Hg, 脈拍96/分,体温36.7℃,心音:整,心雑音なし,肺音:ラ 音なし,腹部:心窩部に軽度圧痛あり,腹部膨満著明.

入院時検査所見(表1)

血液検査で著明な白血球増多お よび好酸球増多を認めた.炎症反応は認めず,肝機能,腎 機能および電解質は特に異常なかった.P-ANCA は陰性, 腫瘍マーカー(CEA、 CA19-9)は正常範囲内であった. また,血清 IgE 値は379IU/ml(<250)と高値であった. 検尿および尿沈渣では特に異常を認めなかった.腹水の細 胞診は Class I で,大半が好酸球であった.腹水中の IgE 値は血清同様高値であった.便検査で寄生虫は検出されな かった.

心電図:異常なし.
胸部レントゲン検査:異常なし.
アレルゲン検査:コナヒョウヒダニclass3,スギ class 1,ハウスダスト class 1.

上部消化管内視鏡:胃は全体的に粘膜の萎縮が強く前庭 部を中心に点状出血性びらんが散在しており,生検にて好 酸球の浸潤を認めた.また,十二指腸の粘膜は浮腫状で発 赤あり,生検にて好酸球の浸潤を認めた. 下部消化管内視鏡:腹水貯留が著明で挿入困難であった ため横行結腸まで観察した.直腸を中心にびらんが散在し, 生検にて好酸球の浸潤を認めた.狭窄や潰瘍は認めなかっ た.

腹部 CT:胃・小腸・大腸にかけて腸管壁の肥厚を認め た.また多量の腹水の貯留を認めた(図3A,B).

胸部 CT:右胸水を少量認めるのみで,胸部異常陰影は 認めなかった.

臨床経過:以上の検査結果より寄生虫疾患・悪性腫瘍・ 血管炎は否定的であり,腹水貯留と胃,小腸,大腸にわた る広範囲な腸管壁の肥厚を伴う好酸球性胃腸炎と診断し た.まず絶食で補液を行ったが症状は改善しなかったため, 入院第4日目よりプレドニゾロン(40㎎/日)投与を開始し た.その後すみやかに下痢および腹満感は改善し,尿失禁 も消失した.

考察

好酸球増多をきたす疾患としては,アレルギー疾患,寄 生虫感染症,血管炎,悪性腫瘍などさまざまあるが,本症 例は,①消化器症状があり,②消化管の一ヵ所以上に生検 で好酸球浸潤が証明され,末梢血での好酸球増多を認め, ③寄生虫疾患,消化管外病変を認めないため Talley らの好 酸球性胃腸炎の診断基準をみたし,好酸球性胃腸炎と診 断した.

この疾患の病変部位としては胃および小腸が好発部位で あるが,食道や大腸の病変も報告されており,全消化管に 発生することが知られている.

また,消化管壁への好酸 球浸潤部位は多彩であり,Kleinらは病理学的に①粘膜優位 型,②筋層優位型,③漿膜優位型の3型に分類している.

西村らはこの病型分類に基づき過去の症例報告を分類し,①が約50%,②が約20%,③が約5%あり,分類不能が約 25%あると報告している .

本邦における好酸球性胃腸炎の症例報告を検索したところ,腹水貯留を呈 した報告例は意外に少なく,このうち多量あるいは著明な 腹水を合併したとする報告はわずかに8報のみであった.

治療は副腎皮質ステロイドの投与が主体であるが,寛解 と再発を繰り返して慢性化することがあると報告されている.また,抗アレルギー薬である tranilast や ebastine が 有効であったという症例報告もある .