今回の文献は 「Nudix hydrolase 15(NUDT15)遺伝子多型検査」 です。
6 -メルカプトプリン(商品名ロイケリン散 ®、以 下 6-MP)と、そのプロドラッグであるアザチオプ リン(商品名イムラン®、アザニン®、以下 AZA)の 2 剤 3 商品は総称してチオプリン製剤と呼ばれ、 6-MP は、主に小児急性リンパ性白血病(ALL)の治 療に、AZA は臓器移植後の免疫抑制剤として、あ るいは炎症性腸疾患やリウマチ性疾患などの免疫調 節剤として寛解維持治療に用いられる。特に、抗体 製剤などの新薬での治療が増えている炎症性腸疾患 においては、多くの患者が現在も使用しているキー ドラッグであり、いかに使いこなすかが議論され続 けている。
チオプリン製剤は最近の免疫疾患に用いる抗体製 剤に比較するとはるかに安価で、さらに長い歴史か らも効果のエビデンスが蓄積されている。しかしそ の一方で、その使いにくさが問題となることが多い。 特に問題となるのは、白血球減少や脱毛といったチ オプリン製剤に特有の副作用である。
血球減少はチオプリン製剤の免疫抑制効果そのものでもある が、大部分の患者には全く問題がない服用量でも、 一部の患者では危険なレベルの行き過ぎた白血球減 少が起こることから、白血球減少=副作用とされて いる。つまり副作用でもあるが、ただ効果が強く出 すぎているだけ、とも言い換えることができる。こ のような副作用は「用量依存性」であり、用量調整 で副作用(過剰な効果)を防ぐことは可能である
特に日本人を含む東アジア人では副作用が多いということがよ く知られており、白血球減少の頻度が欧米人では 1.8 ~ 5.5%であるのに対し、中国人や日本人などの 東アジア人では 15.0 ~ 15.8%程度という報告があ る。そのため、例えば炎症性腸疾患の一般的な治 療開始量が、欧米人では AZA 1.0 ~ 3.0 mg/kg であ るのに対し、日本人ではより少量の 0.5 ~ 1.0 mg/kg から開始することが多い。
このように、全体として 副作用に配慮をしながら治療を開始する日本人患者 においても、極めて少量のチオプリンであるにもか かわらず、白血球数が 1,000/μL未満まで急激に低 下することもしばしば経験され、用量調整だけでは 対応が難しいことがある。また、そのような症例の ほとんどが高度の脱毛(毛髪が抜け始め、その後は 薬剤の投与を中止してもどんどん抜けてほぼ全部な くなる)を併発し、回復に数か月かかる。つまり、 用量調整で対応できると思われているチオプリン製 剤の副作用において、一部の患者に極端な反応があ るため、この印象が特にチオプリン製剤のハードル をさらに高くしている。
チオプリン製剤に対する感受性の違いの要因の一 つとして、チオプリンの代謝能力の個人差があげら れる。チオプリン製剤の代謝経路には多くの代謝酵 素がかかわっており(図 1A)、多くの部分にかかわ る thiopurine S-methyltransferase(TPMT)は、遺伝 的なバリエーションが多く、活性が低い TPMT を持 つ患者では、チオプリン製剤の最終的な活性物質と なる 6 - thioguanine nucleotide(6-TGN)の濃度が高 くなりすぎるために、白血球が過剰に減少する。
代謝経路にある別の酵素の遺伝子多型との関係も 報告があり、日本人でも、MPR4(ABCC4)などの多 型が白血球減少との相関が報告されていたものの、 強烈な副作用を引き起こす症例の原因としては相関 が弱く、日本人のチオプリン高感受性を説明するこ とはできていなかった。
アジア人のチオプリン感受性について、2014 年 に Yang らのグループによってブレイクスルーとな る結果が報告された。この研究では韓国人クロー ン病患者を対象に、チオプリン関連白血球減少症に 関するゲノムワイド相関解析が行われ、NUDT15 遺伝子のコドン 139 が、CGT(アルギニン、Arg) から CAT(システイン、Cys)に変化する非同義置 換多型(R139C 多型)が副作用と相関することが報 告された。この相関は、特にチオプリン服用後早期 (8 週以内)に発症する急性かつ高度の白血球減少と の相関が明らかであり、変異型ホモ(塩基表記で TT 型、アミノ酸表記で Cys/Cys あるいは CC 型) の場合には頻度 100%で白血球数 2,000/μL未満の 高度白血球減少があった。この遺伝子多型は、日本 人ではヘテロが約 20%程度、変異型ホモが 1%で存 在するありふれた多型である一方で、白人では極め てまれ(ヘテロでも 1%未満)であるため、この遺 伝子多型こそがアジア人固有の副作用の原因と考え られた。
急性の高度白血球減少との相関だけでなく、 高度の脱毛は、変異型ホモ(Cys/Cys)で必発であ るが、それ以外(Arg/Arg, Arg/Cys)では 0%であり、 感度・特異度 100%で予測可能であることが共通す る知見として得られた。脱毛の副作用はアジアで は 1 ~ 2%程度でよく知られた「まれだが遭遇する と非常にトラブルになりやすい副作用」であるが、 白人ではほぼ 0%であり、この頻度は、NUDT15 遺 伝子の変異型ホモの一般人口での頻度とほぼ一致す る。全脱毛の副作用は高度白血球減少に伴うことは 経験的にわかっていたものの、その点についての議 論が欧米ではほとんどなく、この病態こそがアジア 人にしか存在しない NUDT15 遺伝子の変異型ホモ 変異によるものであったことが明らかになった。
Moriyama らによる小児血液 腫瘍分野での研究によって、NUDT15 はこれまで 6-TGN とまとめられていたものの中で、チオプリン 製剤の薬効を示す最終代謝産物である 6 -T(d)GTP を 6 -T(d)GMP にする代謝酵素の一つであることが 分かった。つまり、仮に 6-TGN が同じ状態であっ ても、NUDT15 の活性が低ければ相対的に 6 -T(d) GTP が増えるため、免疫抑制作用が通常よりも強 く出現し、白血球減少症に至ることになる(図 1B)。
以前から 6-TGN は日本人の白血球数と相関が一定 しなかったが、NUDT15 の多型がその「内訳」にか かわっており、白血球減少に至っていたということ を考えれば合点がいく。
AZA を用いる成人の免疫 疾患や移植後の維持治療では、剤型も 50 mg の錠剤 一種類しかなく、そもそも厳密な投与量の調整がで きない。また AZA が最もよく使われている炎症性 腸疾患では消化管障害があるため、同じ量の服用で あっても、どの程度吸収されているかなど、その時 点で個人差が大きい。そのため、遺伝子検査をする 目的は、成人においては重篤な副作用症例を見分け ることが最も重要であるだろう。
MENDEL Study で登録された全症例のうちチオ プリン服用歴がある 1,291 例中、NUDT15 遺伝子コ ドン 139 の変異型ホモである Cys/Cys 症例は 49 例 であり、その全例(100%)がなんらかの副作用のた め治療を中止していた。一方で、Arg/Cys(ヘテロ) 型でも 49.1%、Arg/Arg(野生型ホモ)型でも 26.9% の症例が副作用を理由に治療中断をしている。しか し、Cys/Cys 型の副作用の内訳として、多くの症例 が脱毛と白血球減少を合併あるいはいずれかを発症 しており、特に服用後 8 週以内に白血球数 2,000 未 満まで減少した「急性高度白血球減少」あるいは「全 脱毛」という 2 つの重篤な症状のいずれかを発症し た症例が全体の 93.5%と、重篤な副作用を高率に発 症していた。同様の副作用は、Arg/Cys 型で 5.2%、 Arg/Arg 型で 0.4%であり、Cys/Cys 型が突出して 重篤な副作用を発症していることがわかる(図 2)。
肝障害、膵炎、感染症などの副作用は R139C 多 型との相関は認めず、これらは用量依存性の副作用 とは異なる可能性が考えられた。
MENDEL Study での結果もあり、AMED 事業で キット開発の分担研究を行っていた医学生物学研究 所が NUDT15 遺伝子のコドン 139 の多型(R139C お よび H)を検出する遺伝子検査キットを開発した。
炎症性腸疾患患者における本検査の解釈について、現在学 会から発表されているものは表 1 のとおりである。
この論文はとてもいい内容の論文ですが、私の理解を超えている部分も多くあります。でも一応わかっていることだけでもまとめておきます。
私は最初はアザニン 25 mg から開始しますが、その後すぐにロイケリンに変更するようにしています。
ロイケリンは粉末なので、30 mg とか 40 mg という微調整がきくからです。
なお、ロイケリンの力価はアザニンの 2 倍なので、アザニン 50 mg = ロイケリン 25 mg と考えています。
ザックリとした目安として白血球を 4000 以下にするように微調整しています。