KL-6 は間質性肺炎に対する鋭敏な血清マーカーです。
KL-6 とは MUC1 ムチンと呼ばれる物質の一部分です。
ムチンとは、動物の上皮細胞などから分泌される粘液の主成分として考えられている、巨大な分子量の糖蛋白です。
ムチンの全般的な形としては、おおよそ以下のような構造をしているようです。
分泌型と非分泌型(膜結合型)に分類され、分泌型では上の図の樹枝状の部分が脱落して粘膜表面の湿度を保つのでしょう。
ムチンの種類は現在のところ、MUC1 から MUC19 まで、少なくとも 20 種類あることがわかっていますが、KL-6 とは MUC1 ムチンと呼ばれる物質の一部分です。
MUC1 ムチンは下の図のような形をしています。
1985年に河野修興ら(現広島大学分子内科学 教授)は、ヒト肺腺癌由来細胞株(VMRC-LCR) をマウスに免疫することで数種類のモノクロー ナル抗体を作成しました。これらのモノクローナル 抗体は肺癌(Krebs von den Lungen)細胞を用い て作成したことにより、KLと命名されたました。抗 KL-6抗体はその6番目の抗体を意味しています。
KL-6抗体はMUC1 上に発現されるシアル化糖鎖抗原を認識しています。 すなわち、KL-6(抗KL-6抗体が認識する物質)は、MUC1の一部と考えられており、200 kDa以上の分子量をもつ巨大な糖蛋白です 。
MUC1 ムチンは非分泌型のムチンで、細胞の保護と細胞間接着の制御を行っていると考えられています。
肺胞上皮には 2 つの種類があります。
上の図の Type Ⅰ pneumocite が Ⅰ 型の肺胞上皮です。
扁平な形をしておりこの細胞を通して酸素・二酸化炭素の交換がおこなわれます。
Type Ⅱ pneumocite は Ⅱ 型の肺胞上皮です。
この細胞は高さのある形状をしており、サーファクタントを分泌して肺胞が虚脱しないようにしています。
KL-6 は肺では Ⅱ 型の肺胞上皮に多く存在しています。肺以外では膵管・乳管などに存在しているようです。
間質性肺炎では、何らかの刺激により肺胞上皮および肺胞壁で炎症が起こり、Ⅰ 型肺胞上皮細胞が脱落し、修復のために Ⅱ 型肺胞上皮細胞が増生されます。
間質性肺炎で血清のKL-6 値が上昇する理由は、
ためと考えられています。
血清KL-6値は、間質性肺炎にほぼ特異的なマーカーと考えられます。
上昇する | IPF、膠原病関連間質性肺炎、過敏性肺炎、放射性肺炎などの間質性肺炎 |
---|---|
上昇しない | 健常者や細菌性肺炎、肺気腫などのその他の肺疾患 |
ある論文によると、間質性肺炎診断のための感度は 60.7%,特異度は 98.9% であり、 血清KL-6 の測定が膠原病関連間質性肺炎の診断および疾患活動性の評価に非常に有用であると報告されています。
ネットのその他の情報では、感度は最大で 94 % でした。
いずれにしても、間質性肺炎のマーカーとしては KL-6 が最も優秀なようです。
KL-6 は間質性肺炎の診断補助検査として非常に有用ですが,予後予測因子としても利用で きることが示されています.
特発性肺線維症(idiopathic pulmonary fibrosis:IPF)の急性増悪例における検討では,ステロイドパルス施行 1 週 間後のKL-6 値が施行前値より上昇した症例は,不変あるいは低下した症例より予後が悪かったことが示されています.
また,推定発症時期から3 年以内に測定されたKL-6 値が 1,000U/ml以上のIPF患者は,1,000U/ml未満の患者と比較して有意に予後が不良でした.
さらに放射線肺炎における検討では,KL-6 値が放射線治療中あるいは治療後に治療前より 1.5 倍以上に上昇した症例 では重篤な放射線肺炎が発症する可能性が高いと報告されています.
薬剤性肺炎においては,KL-6 は重症例においてのみ上昇し,経過中に低下すれば生存,不変あるいは増加する場合は死亡する可能性が高いことも報告されています.